ご家族が亡くなった後でも、生前の医療費について高額療養費を申請できる場合があります。まだ申請していない分があるときや、申請済みで支給を待っているときは、その後に必要となる手続きを確認します。
まずは、対象となる診療月ごとの申請状況と、その医療を受けたときに加入していた医療保険を確認することが出発点です。
未申請の場合は申請方法や期限を、申請済みの場合は支給状況や振込先を、加入していた医療保険の窓口へ確認します。
本記事では、ご本人が確認できるうちに整理しておけること、手続き状況別の対応、死亡後の申請の流れ、医療保険による違いまで順に解説します。
あわせて、相続放棄や税務上の注意点、医療費控除・葬祭費など別に確認したい制度も紹介します。
本人が亡くなった後も高額療養費を申請できる場合がある
死亡後の高額療養費について確認するときは、制度の基本と、申請できる人が一律ではないことを押さえておく必要があります。
高額療養費制度の基本を簡単に確認
高額療養費は、医療費の自己負担が一定の上限額を超えた場合に、その超えた額が支給される制度です。

上限額は年齢や所得などによって異なり、制度改正もあるため、本記事では金額表は掲載しません。
最新の内容は、厚生労働省の「高額療養費制度を利用される皆さまへ」で確認できます。
誰が申請するかは医療保険と立場によって異なる
死亡後の高額療養費は、「亡くなった方の医療費だから相続人が申請する」と一律に考えることはできません。
申請できる人は、加入していた医療保険や、亡くなった方が被保険者・被扶養者・世帯主のどの立場だったかによって異なります。
具体的な違いは、後述する「加入していた医療保険別の申請先と確認点」で解説します。
本人が確認できるうちに整理しておくこと
高額療養費の申請中や確認途中で、ご本人が内容を確認できる場合は、加入している医療保険や申請状況を整理しておくと、その後の手続きを進めやすくなります。
ご本人が自分で確認しておくほか、家族が今後の手続きを確認する可能性がある場合は、保険者名や申請状況、関係書類の保管場所などを共有できる状態にしておきます。
詳しい必要書類をあらかじめそろえるのではなく、まずは現在分かっている情報を整理します。
加入している医療保険と連絡先を確認する
加入している医療保険の保険者名と問い合わせ先を確認します。
マイナポータルの資格情報、資格確認書、資格情報のお知らせなども、加入先を確認する手がかりになります。
退職・転職・扶養変更などで対象診療月の途中に加入先が変わった場合は、変更前後の加入先が分かるようにしておきます。
申請状況を診療月ごとに整理する
申請中の高額療養費がある場合は、対象診療月、申請日、申請先、現在の支給状況、振込先などを分かる範囲で整理します。
ご本人だけでなく家族が確認する可能性がある場合も、どの手続きが途中なのか分かる状態にしておくと、その後の確認がしやすくなります。
通知や申請控えの保管場所を分かるようにする
保険者から届いた通知、申請書の控え、医療費の領収書、振込先が分かる資料などは、必要になったときに確認できるよう、保管場所を整理しておきます。
家族が手続きを確認する可能性がある場合は、どこに保管しているかを共有しておくと、同じ申請を重ねたり、未申請分を見落としたりするのを防ぎやすくなります。
実際に必要となる書類は保険者や申請する人によって異なるため、戸籍や領収書などを一律にそろえる必要はありません。
必要になった段階で保険者の案内を確認します。

高額療養費の手続き状況別に確認すること
高額療養費が未申請なのか、申請済みで支給を待っているのか、すでに支給されているのかによって、その後に確認する内容が変わります。
現在の状況に当てはまる項目を確認し、申請が必要な場合は次の「死後に高額療養費を申請する流れ」へ進みます。
まだ申請していなかった場合
未申請の診療月がある場合は、その診療を受けたときに加入していた医療保険へ、申請できるかと申請期限を確認します。
期限が近い場合は、必要書類をすべて揃えてからではなく、まず保険者へ申請方法を確認します。
申請済みで、まだ支給されていない場合
申請書の控えや支給決定通知の有無を確認し、必要に応じて申請先へ審査・支給状況を問い合わせます。
振込先として故人名義の口座を指定している場合、口座が凍結されるなどして振込できないことがあります。
その場合の振込先変更や必要な手続きは、申請先へ確認します。
すでに支給されていた場合
支給済みの場合は、支給決定通知や通帳などから、いつ、どの口座へ入金されたかを確認します。
支給された高額療養費の相続・税務上の扱いについて確認が必要な場合は、後述する「受け取った高額療養費の相続・税務上の扱い」で整理します。
申請書や案内が届いていない場合
高額療養費の申請書や案内が届く時期、申請方法は保険者によって異なります。
案内が届いていないことだけで対象外とは判断せず、対象となる診療月や申請状況を確認したうえで、加入していた医療保険へ問い合わせます。
たとえば川崎市の国民健康保険では、高額療養費に該当する世帯へ、診療月のおおむね3か月後に申請のお知らせを送付しています。
参考:川崎市「高額療養費」
案内の時期や方法は全国共通ではないため、加入していた医療保険の案内を確認します。
死亡後に高額療養費を申請する流れ
高額療養費の申請が必要な場合は、その医療を受けたときに加入していた医療保険と申請できる人を整理し、必要書類をそろえて手続きを進めます。
申請できる人や必要書類、振込先などは医療保険によって異なるため、次の流れを目安に、加入していた保険者の案内に沿って確認します。
1.加入していた医療保険と申請先を特定する
まず、その医療を受けたときに加入していた医療保険を調べます。
高額療養費は、原則としてその医療保険の保険者へ申請します。
退職や転職、扶養の変更などがあった場合は、現在の加入先ではなく、対象となる医療を受けたときの加入先を確認します。
2:申請できる人と振込先を整理する
加入していた医療保険へ、死亡後に誰が申請できるのか、どの口座を振込先にできるのかを問い合わせます。
相続人が申請するケースで相続人が複数いる場合は、代表者の指定や相続関係を確認する書類が必要になることがあります。
具体的な取扱いは保険者によって異なるため、申請書の名義や振込先の条件は、保険者の案内に沿って記入します。
3.必要書類をそろえる
保険者の案内に沿って、申請書と必要な添付書類を準備します。
申請する人の立場によっては、本人確認書類、振込先が分かるもの、亡くなった方との関係を確認する戸籍書類などを求められることがあります。
必要書類は一律ではないため、戸籍一式や遺産分割協議書などを先にすべてそろえるのではなく、原本・写しの指定も含めて保険者の案内を確認します。
4.案内された方法で申請する
必要書類がそろったら、保険者が案内する方法で申請します。
提出方法や送付先、本人確認の方法などは保険者によって異なります。
提出した書類の控えや申請日、問い合わせ先を残しておくと、その後の支給状況を確認しやすくなります。
5.支給状況と振込先を把握する
申請後は、追加書類の有無や支給決定の状況、支給決定や振込の予定を把握します。
支給までにかかる期間は保険者や審査状況によって異なります。
案内された時期を過ぎても支給状況が分からない場合や、指定した口座が凍結されている場合は、申請先へ問い合わせます。

加入していた健康保険による申請先の違い
高額療養費の申請先や、死亡後に誰が申請するかは、加入していた医療保険によって異なります。
ここでは、国民健康保険、後期高齢者医療、会社の健康保険・共済組合に分けて、主な違いを確認します。
国民健康保険に加入していた場合
市区町村の国民健康保険に加入していた場合は、その市区町村へ確認します。
国民健康保険組合に加入していた場合は、加入していた国保組合が確認先です。
市区町村国保の高額療養費は、診療を受けた人ではなく世帯主に支給される仕組みです。
亡くなった方が世帯主だった場合など、死亡後に誰が申請するか、振込先をどのように指定するかは、加入していた市区町村国保へ確認します。
後期高齢者医療制度に加入していた場合
後期高齢者医療制度の高額療養費は、後期高齢者医療広域連合から支給されます。
実際の問い合わせや手続きは、市区町村の後期高齢者医療窓口で受け付けている場合もあります。
被保険者が亡くなった場合は、相続人代表者による申請や相続関係を確認する書類などが必要になる例があります。
たとえば板橋区では、相続人代表者による申請を案内しており、登録済みの口座が凍結されて振り込めない場合の手続きも示しています。
具体的な手続きは、加入していた広域連合や市区町村の案内を確認します。
会社の健康保険・共済組合に加入していた場合
会社の健康保険に加入していた場合は、協会けんぽや健康保険組合など、対象となる医療を受けたときに加入していた保険者へ確認します。
共済組合に加入していた場合は、その共済組合が確認先です。
会社の健康保険では、亡くなった方が被保険者本人だったのか、被扶養者だったのかによって、高額療養費を受け取る人が異なることがあります。
たとえば協会けんぽでは、被保険者本人が亡くなった場合に相続人が請求する手続きを案内しています。
一方、被扶養者の医療に関する高額療養費は被保険者に支給される仕組みのため、「亡くなった方の医療費だから相続人が申請する」とは限りません。
申請できる人や必要書類は、加入していた保険者の案内を確認します。

高額療養費の申請・受け取りで注意したいこと
高額療養費については、申請期限のほか、相続放棄を検討している場合や、亡くなった方に帰属する給付を相続人が受け取る場合の扱いにも注意が必要です。
請求期限を過ぎていないか
高額療養費の申請期限については、厚生労働省でも診療月の翌月1日から2年と案内しています。
参考:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(Q&A)」
死亡日や申請書が届いた日から2年ではありません。未申請分がある場合は対象となる診療月を確認し、期限が近いときは加入していた医療保険へ申請方法を確認します。
相続放棄を検討している場合は申請前に確認する
相続放棄を検討している場合は、まず、高額療養費を受け取る権利が誰にあるのかを確認します。
亡くなった方自身に帰属する給付請求権を相続人が引き継ぐケースでは、高額療養費の申請や受け取り、受け取った金銭の使用が相続放棄に影響する可能性があります。
民法では、相続財産の全部または一部を処分した場合、原則として単純承認をしたものとみなす規定があります。

ただし、高額療養費の申請や受け取りがどのように扱われるかは、給付の権利者や具体的な行為によって異なります。
相続放棄を検討している場合は、高額療養費の手続きを進める前に、加入していた医療保険へ給付の権利者を確認し、必要に応じて弁護士などへ相談します。
相続放棄についてはこちらでご説明しています。
受け取った高額療養費の相続・税務上の扱い
死亡後に相続人が高額療養費を受け取る場合も、まず、その給付を受ける権利が誰に帰属しているのかを確認します。
亡くなった方自身に帰属していた給付請求権を相続人が引き継ぐ場合は、相続財産として扱われることがあります。
一方、医療保険や亡くなった方の立場によっては、もともとの給付の権利者が別の人である場合もあります。
相続税の申告が必要な場合など、個別の税務上の扱いについて判断が必要なときは、給付の権利者や支給状況を整理したうえで確認します。
相続税について詳しくはこちらで解説しています。
相続税はかかるのか?~遺産相続にかかる税金と確定申告について
高額療養費とは別に確認したい制度・手続き
亡くなった方の医療費に関連して、高額療養費とは別に確認が必要になる制度や手続きがあります。
ここでは主なものだけ紹介します。該当する場合は、それぞれの制度や手続きを分けて確認します。
未払いの医療費
亡くなった時点で入院費などの医療費が未払いになっている場合は、高額療養費の申請とは別に、支払いについて確認します。
未払い医療費は相続や相続税にも関係することがあるため、金額や支払状況が分かる請求書などを保管しておきます。
医療費控除・準確定申告
高額療養費は、医療費控除を計算する際に、医療費を補てんする金額として差し引きます。
死亡後に支払った医療費を誰の医療費控除に含めるかは、支払日、支払者、生計関係などで変わります。
また、亡くなった方の準確定申告では、死亡後に相続人が支払った医療費をその方の医療費控除に含めることはできません。
医療費控除については、高額療養費の申請とは分けて確認します。
葬祭費・埋葬料などの給付
亡くなった方が加入していた医療保険によっては、高額療養費とは別に、葬祭費や埋葬料・埋葬費などを申請できる場合があります。
たとえば、協会けんぽでは、埋葬料・埋葬費について別途案内しています。
給付の名称や対象者、申請先などは加入していた医療保険によって異なるため、高額療養費とは別の給付として確認します。

まとめ|死亡後の高額療養費は状況と加入先から確認する
本人が亡くなった後でも、未申請分や申請済みで未支給の高額療養費について、手続きが必要になる場合があります。
まず、対象となる診療月について、申請がどこまで進んでいるか、その医療を受けたときに加入していた医療保険はどこかを確認します。
誰が申請できるかは、国民健康保険・後期高齢者医療・会社の健康保険などの違いや、亡くなった方の立場によって異なります。
未申請の場合は加入していた保険者へ申請方法や期限を確認し、申請済みの場合は支給状況や振込先を確認します。
相続放棄を検討している場合は、給付を受ける権利が誰にあるのかを確認したうえで、申請や受け取りを進める必要があります。
未払い医療費、医療費控除・準確定申告、葬祭費・埋葬料などは、高額療養費とは別の制度・手続きとして確認します。

