共同相続人全員でおこなう遺産分割。
はじめてのことであり、身内とはいえお金のことは気を使います。
具体的に、どのように、分割をすればよいのでしょうか。
▼こちらのページは、動画でもご覧いただけます。
現金・預金の分割方法
銀行口座の凍結
銀行、ゆうちょなどの口座は、名義人が死亡するとただちに凍結され、所定の手続を踏まない限りは出金ができなくなります。
入金も引き落としもできなくなりますので、早急な手続きが必要になります。
預金の凍結がされる前に、急いで預金を引き出すと・・・
他に相続人がいない、または相続人同士でトラブルになることは絶対にない、という状況でしたら、預金の凍結がされる前に、急いで預金を引き出すというのもひとつの方法かもしれません。
しかし、自分以外に相続人がいて、事前の相談無く、ご自身の判断で故人の預金を引き出してしまうと、トラブルになる可能性が非常に高いです。
親族間のことですから、違法行為とまでは言いませんが、あきらかな不正行為とみなされます。
相続財産は、故人の死亡と同時に相続人全員の共有財産となります。
それを勝手に引き出すということは、いかなる言い訳も通用しません。
ましてや私的に流用などすると、民法上の不当利得(正当な権利がないにも関わらず、金銭的な利得を得ること)となり、他の共同相続人からの返還請求に応じる義務が生じてしまいます。
不動産の分割方法
現物分割 | 例えば,複数の不動産を相続人が別々に取得するような分割方法です。 |
---|---|
代償分割 | 誰かが不動産名義を相続して、他の相続人には代わりに金銭などを支払います。 |
換価分割 | 不動産を売却して、その売却代金を分割します。 |
共有登記 | 一つの不動産を、2分の1は誰それ、3分の1は誰それ、といった具合に共有して相続します。 |
自宅の相続
ご自宅の場合は、代償分割が主流かとおもわれます。実際にその家に住む人が名義を相続して、その代わりにいくらかの金銭を他の相続人に支払います。もちろん、他のご相続人は代償金を受け取らずに、名義を譲渡されても問題ありません。
ご自宅を売却して換価分割するときは、相続人全員の共有登記をして、全員で売却手続をおこなうほうが、あとあとのトラブルを防ぐことになります。
長男に相続権がある?
戦前の民法は家長制度でした。家は長男が継ぐもの、次男坊や女性は家督を相続しない、というものです。戦後、法律が変わりましたが、それでも日本人の心情として、家は長男が継ぐもの、という考えは根強く残っているように思います。
実子に男子がいないからと、婿養子をもらってお家を存続させるということも、一般的におこなわれています。
ただし、現在は慣習・道徳的にそれらがおこなわれているだけであって、法律的に正しい行為である、ということではありません。法律上、長男以外の兄弟姉妹にも、親が築いたり受け継いだりしてきた財産を相続する権利が等しく認められています。
法的には、家を継ぐものが代表して自宅名義を相続したら、兄弟姉妹にはいくばくかの代償金を支払う義務があります。
ここを誤解すると相続トラブルとなりますので、くれぐれも注意してください。
証券(国債、株、投資信託など)の分割方法
国債、株、投資信託などの有価証券の分割は、現預金とは異なります。
- 時価で換金して分割
- 証券のまま、名義を変更して分割
上記いずれかの分割方法になります。
証券会社や信託銀行などに故人の口座があるのが通常です。
証券のまま相続するときは、相続人名義の証券口座を開設し、名義変更をおこないます。
もちろん、すでにお持ちの口座を利用してもかまいません。
また、故人名義のままでは、換金もできませんので、換金するときも、
相続人名義の証券口座を開設し、いったん名義を変更し、その後、ご自身の口座として、換金(有価証券の売却)をおこなうことになります。
証券は時価で評価されますので、元本割れしているケースも珍しくありません。
換金せずに今後の景気回復を見越して、証券のまま保有し続けるというのも可能です。
ただし、今以上に目減りしてしまうリスクもありますので、自己判断で慎重に決定してください。
詳しくは、こちらもご参考ください。
全体のバランスが大切
遺産の全体を把握したら、法定相続分に基づいて分割していくのが基本です。
すべてをきっちり均等に分割しなくても、自宅は長男、預金は二男、国債は長女に、、、といった分割でもかまいません。
ポイントは全員が納得することですので、自我を主張するばかりでなく、引っ込めるところは引っ込めて、ここだけは主張させて欲しい、という気持ちで遺産分割協議に臨まれるのが理想的といえます。
遺産分割協議書について
遺産分割協議がまとまったら、その内容を遺産分割協議書という書面にして、相続人全員の署名捺印をおこないます。
なお、不動産相続登記をおこなうとき、相続税を申告するときなどで、法務局や税務署に提出が必要になる場合は、作成が必要ですが、
遺産分割協議書は、主に、相続人同士の間で、あとから言った言わないを防ぐ効力のために作成するもので、提出する機関がなければ、絶対に作成が必要な書類ではありません。
遺言書がある場合
故人が遺言書を残されている場合は、遺産分割協議をせずに、遺産相続手続きをすすめることが可能です。
ただし、遺言書に不備がある場合などは、別途、遺産分割協議をおこない、従来どおりの手続きをすすめることになります。
また、法定相続人の全員が納得する場合は、遺言書を反故にして、遺産分割協議をすすめることが可能な場合もあります。
遺言書の種類
遺言書には、
① 公証役場で作成した、公正証書遺言
② ご自身で直筆された、自筆遺言
がございます。
公正証書遺言であれば、その謄本を、各相続手続きにそのまま使用できます。
自筆遺言のときは、事前に、家庭裁判所で検認の手続きが必要になります。
特別受益の持ち戻し、生前贈与、遺留分について
相続人の中に、生前に多額の贈与を受けていたり、遺言で多額の相続権を得たりした人がいるときは、他の相続人との相続分のバランスを欠くことになりますので、すでにもらった分、これからもらう予定の分も相続財産全体に組み込んで、分割をおこないます。(特別受益の持ち戻し)
また、遺留分や寄与分などの問題もありますが、これらを厳密に判断することは実質不可能であり、調停、審判と進んでも、多くの場合は納得のいく形にはならないように感じます。
ご自身のお気持ちとして、考えに考えた結果、とことん争ってでも権利を主張するんだ、という強い決意に至った場合はともかくとして、
そこまでの強い決意のないままに、いたずらに権利を主張する行為は、遺産分割協議を無為に長期化させる原因ともなります。
ある程度の柔軟なお気持ちを持って、遺産分割協議に臨んで頂きたいというのが、私個人の私見です。
遺産相続トラブルを防ぐために
遺産相続とは、複数の遺産相続人が関与し、遺産分割協議と遺産相続手続きをすすめていくことになりますため、各相続人の想いがばらばらで、なかなか意見の統一がとれない場合がございます。
そしてその根底には、相続人の間の不公平感が存在しているように感じます。
特定の相続人だけが故人から特別な寵愛や経済的援助を受けていた、もしくはその反対に、特定の相続人だけが、故人に対し介護や経済的援助などの負担をおこなっていた場合などです。
理由なく、自分だけが有利に相続したいといってトラブルになるケースは少なく、多くの場合が、不公平感からくる感情で、納得がいかない、として、トラブルになっているのではないでしょうか。
兄弟や親族の間で話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所で調停や審判をおこなうことになりますが、その負担は大きく、ほとんどの方がそこまでの争いを望んでいないようにもおもいます。
遺産相続をきっかけに親族関係を疎遠にしてしまうよりも、これからの長い人生を気持ちよく生活していただくために、円満な遺産相続のお手続きを専門家としてサポートさせていただきたいと考えております。