故人の医療費の請求が届いても、誰が最終的に負担するか、故人の預金から支払ってよいかまで、その場ですぐ決める必要はありません。
まず請求書と明細を保管し、未払いなら支払期限を確認します。すでに支払った場合に残しておきたいのは、領収書と、支払った人やお金の出所が分かる記録です。
その後は、未払いの医療費を誰が負担するか、家族などが立て替えた分をどう精算するか、税金や高額療養費でどの手続きが必要かを分けて整理できます。
この記事では、請求が届いた直後の対応から、負担や支払方法、税金・払い戻しの条件と期限まで、順を追って説明します。
医療費の請求が届いた直後にすること
請求が届いたら、まず書類を保管し、今回の請求分が未払いか、すでに支払われているかを確認します。
- 請求書と明細を保管し、家族などがすでに支払っていないか確認する
- 未払いなら、支払期限と病院の連絡先を確認する
- 支払済みなら、領収書や振込控えなどをまとめ、支払った人やお金の出所を記録する
以下では、支払いの確認方法と、状況に応じて残しておきたい書類・記録を説明します。
請求書・明細を保管し、支払状況を確認する
請求書と費用の内訳が分かる明細は、一つの封筒やファイルにまとめて保管します。
次に、家族などが今回の請求分をすでに支払っていないか確かめます。
領収書や振込控え、カード利用明細があれば、請求内容や金額と照らし合わせるための資料になります。
どの請求に対する支払いか分からない場合は、手元の書類をもとに病院の窓口へ問い合わせてください。
支払済みと分かった場合は、領収書や振込控えなども請求書と一緒に保管します。後で立て替えた費用の精算や、税金・払い戻しの手続きを確認する際に役立つ資料です。
未払いなら支払期限をまず確認する
未払いと分かった場合は、請求書に支払期限が書かれているかを確認します。
期限の記載がない、請求内容が分からない、期限までに支払方法を決められないときは、請求書に記載された病院の窓口へ問い合わせます。
支払期限の変更や分割払いを希望する場合も、病院に対応の可否を尋ねてください。
説明を受けた日、担当窓口、案内された期限や支払方法を控えておくと、後から確認しやすくなります。
支払った人・日付・金額・お金の出所を記録する
すでに支払っていた場合も、今後支払った場合も、どの請求に対する支払いかが分かるよう、領収書と一緒に次の情報を残します。
- 支払った人
- 支払日と金額
- 支払いに使ったのが、支払者自身のお金か、故人の預金・現金か
例えば「9月27日、長男が自分のお金から○円を病院へ振込」と一行で構いません。振込控えなどもあれば、実際の支払いと記録を照らし合わせられます。
死亡時に未払いだった医療費は誰が負担するのか
請求書が家族の一人に届いても、その人が医療費の全額を負担すると決まるわけではありません。
確認するのは、故人本人が支払うべき医療費か、家族が保証人として支払いを引き受けているかという点です。
病院への連絡や一時的な支払いを担当する人と、法律上の負担者は分けて考えます。
故人の未払い医療費は原則として相続人が引き継ぐ
故人が支払うべき医療費が死亡時に未払いだった場合、その債務、つまり支払いの義務は、原則として相続人に引き継がれます。
相続人が複数いるときは、原則として各人が法定相続分(法律で定められた相続割合)に応じて負担します。
法定相続分についてはこちらで説明しています。
請求書の宛名だけで判断せず、患者名、診療期間、請求の内訳、入院時の契約書類を確認してください。
内容が分からない場合は、病院に明細や関連書類の説明を求めます。
相続放棄を検討している場合の注意点は、後述の「相続放棄を考えている場合は支払い前に確認する」で説明します。
病院への連絡役と最終的な負担者は分けて考える
家族の一人が病院への連絡や振込を担当しても、それだけで医療費の全額を負担する人になるわけではありません。
一方、相続人間で「一人が負担する」と決めても、その取り決めだけで、ほかの相続人が病院に対する支払い義務を免れるわけではありません。
家族間の精算と、病院に対する支払い義務は別の問題です。
連絡役が病院から聞いた請求内容や支払期限は、相続人に共有します。
誰かが立て替えた場合の精算については、後述の「家族などが立て替えた医療費をあとで精算するには」を参照してください。
相続人間の負担と、病院に対する債務の違いは、裁判所の案内でも確認できます。
保証人・連帯保証人がいるときは契約内容を確認する
入院申込書や保証書に家族の名前がある場合は、誰が署名したか、医療費の支払いについてどのような保証を引き受けたかを確認します。
保証人・連帯保証人として有効な契約を結んでいれば、相続人としての負担とは別に、保証契約に基づく支払いの責任を負うことがあります。
保証する費用や責任の範囲は、契約書類で確かめる事項です。
支払う前に「どのお金から出すか」を分けて考える
医療費を支払うときは、振込などを担当する人だけでなく、どのお金を使うかも確認します。
家族などが自分のお金で立て替える場合と、故人の預金・現金から支払う場合では、後で整理する内容が異なります。
家族などが自分のお金で立て替える場合
家族などが自分の口座やカードから支払う場合は、領収書とともに、支払いに使った口座・カードの名義が分かる記録を残します。
領収書だけでは、実際に誰のお金から支払ったか分からないことがあるためです。
立て替えた費用を後でどう精算するかは、支払った事実とは分けて考えます。
相続人ではない人が支払った場合は、故人との関係や支払った経緯も、後の話し合いに必要な情報です。
故人の預金・現金から支払う場合
故人名義の預金や故人が残した現金は、相続財産です。医療費の請求が届いたからといって、相続人の一人が独断で引き出し、支払いに充てるものではありません。
まず、請求内容と使う資金をほかの相続人に伝え、その扱いを確認します。
遺産分割前でも、故人の預金については、相続人が所定の手続きで一定額の払戻しを受けられる制度があります。
ただし、払い戻した額は、後の遺産分割で払戻しを受けた相続人が取得するものとして調整されます。
制度を利用する場合は、金融機関に手続きを確認し、払い戻した金額と使い道を記録しておきましょう。
制度の利用条件と遺産分割での扱いは、全国銀行協会の案内で確認できます。
参考:全国銀行協会「遺産分割前の相続預金の払戻し制度のご案内」
相続放棄を考えている場合は、支払方法を決める前に確認する
相続放棄を検討していても、病院への問い合わせを止める必要はありません。まず請求内容と支払期限を聞き、すぐに支払えない場合の対応を確認します。
請求について問い合わせることと、実際に故人の財産から支払うことは、分けて考える必要があります。
故人の財産から医療費を払う前に確認する
故人の預金・現金からの支払いや、遺産分割前の預金払戻し制度の利用は、進める前に法的な影響を確かめます。
相続財産の処分は、単純承認したものとみなされる原因になり得ます。
ただし、医療費を支払った場合の影響は、使った資金や行為の内容などによって異なり、一律には判断できません。
支払いを予定している場合は、請求書と支払いに使うお金が分かる資料を用意し、弁護士などへ確認します。
すでに支払った場合も、それだけで相続放棄ができないと決めず、支払日、金額、お金の出所、支払った経緯を整理して伝えます。
保証人としての責任は相続放棄と分けて考える
家族自身が医療費の連帯保証人になっている場合、相続放棄をしても、有効な保証契約に基づく支払いの責任はなくなりません。
入院時の契約書類を確認し、故人から引き継ぐ債務と、自分が保証人として負う責任を分けて整理します。
相続放棄をした場合の連帯保証人の責任は、法テラスの案内でも確認できます。
参考:法テラス「父の財産の相続を放棄した場合、連帯保証人としての私の責任はどうなりますか。」
家族などが立て替えた医療費をあとで精算するには
家族などが自分のお金で医療費を立て替えた場合は、領収書や振込控えをもとに、どの請求を誰がいくら支払ったかを相続人間で共有します。
実際に支払った人と、最終的に費用を負担する人は、同じとは限りません。
故人の債務を誰がどの範囲で引き継ぐかを踏まえ、立て替えた分をどう精算するか話し合います。
合意できたら、次の内容を記録してください。
- 精算の対象となる支払いと金額
- 支払う人と受け取る人
- 支払予定日と支払方法
立て替えた費用を返してもらえるか、いくら精算するかで意見が合わない場合や、相続人ではない人への精算について判断が必要な場合は、弁護士などへ確認します。
税金の扱いは、次の章で説明します。
あとで確認できる税金と払い戻し
医療費に関係する制度でも、医療費控除、相続税の債務控除、高額療養費では確認する条件が異なります。
まずは請求書や領収書を残し、支払日・支払者・死亡時点で未払いだったかを分けて記録します。
「あとで確認できる」手続きにも期限があるため、該当する手続きと期限は早めに確かめておきましょう。
医療費控除は支払時期・支払者・生計関係を確認する
医療費控除では、治療を受けた日だけでなく、実際に医療費を支払った日と人が重要です。治療を受けた年ではなく、支払った年の医療費として確認します。
| 支払った時期・人 | 確認すること |
| 故人が死亡日までに支払った | 故人の準確定申告で医療費控除の対象になるか |
| 家族などが死亡後に支払った | 故人の準確定申告には含められません。治療時に故人と生計を一にしていた親族が支払った場合は、その人の医療費控除の対象になるかを確認します。 |
死亡後に支払った分は、故人の財産から出した場合でも、故人の準確定申告の医療費控除には含められません。
死亡後に支払った医療費の扱いは、国税庁の「死亡した父親の医療費」で確認できます。
「生計を一にする」は同居だけで判断しない
「生計を一にする」とは、生活費などを共通にして暮らす関係のことです。同居していなくても、継続して生活費や療養費を送金している場合などは、該当することがあります。
生計関係の考え方は、国税庁の「扶養控除」にある「『生計を一にする』の意義」でも説明されています。
高額療養費などで補われる金額は分けて記録する
高額療養費や入院給付金などで補われる金額は、医療費控除を計算する際に、その給付の対象となった医療費を限度として差し引きます。
給付額が対象の医療費を上回っても、ほかの医療費から差し引くものではありません。
支払いの記録と給付の通知を一緒に保管しておくと、どの医療費に対する給付かを確認しやすくなります。
医療費控除で差し引く給付金などの扱いは、国税庁の案内で確認できます。
医療費控除に関係する申告期限を確認する
準確定申告は、相続人が故人の死亡日までの所得などを申告する手続きです。申告・納税が必要な場合の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内となります。
死亡後に医療費を支払った人が自分の確定申告をする場合は、原則として支払った年の翌年3月15日が期限です。
確定申告の義務がなく、納め過ぎた税金の還付を受けるための申告だけを行う場合は、支払った年の翌年1月1日から5年間提出できます。
ただし、期限内の申告が条件となる別の特例を使う場合は、その期限も確認が必要です。準確定申告と還付申告の期限は、国税庁の案内で確認できます。
参考:国税庁「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
参考:国税庁「還付申告」
死亡時点の未払い医療費は相続税の債務控除を確認する
相続税の債務控除は、故人が残した一定の債務を、相続税を計算する際に遺産総額から差し引くことです。
対象となるのは、故人が亡くなった時点で存在し、確実と認められる故人の債務です。
未払いの医療費についても、故人本人の債務か、死亡時に未払いだったか、金額はいくらかを請求書や明細で確認します。
控除の扱いは、実際に支払った人だけで決めるものではありません。誰が債務を負担するかも含めて整理し、不明な場合は税務署へ確認してください。
控除できる債務の条件は、国税庁の案内で確認できます。
すべての相続で相続税の申告が必要になるわけではありません。申告・納税が必要な場合の期限は、故人の死亡を知った日の翌日から原則10か月以内です。申告の要否と期限も、あわせて確かめます。
高額療養費などの払い戻しは加入していた保険者へ確認する
高額療養費は、同じ月の公的医療保険の対象となる自己負担額が上限を超えた場合に、その超過分の支給を受けられる制度です。
窓口ですでに自己負担額を上限までに抑える扱いを受けている場合もあるため、請求額が高いだけで払い戻しを受けられるとは判断できません。
まず、故人が加入していた保険者を確認します。保険者とは、市区町村、後期高齢者医療広域連合、協会けんぽ、健康保険組合など、公的医療保険を運営する機関のことです。
高額療養費の制度と窓口負担を軽減する方法は、協会けんぽの案内で確認できます。
参考:協会けんぽ「限度額適用認定証・高額療養費・高額介護合算」
死亡後の高額療養費は申請者・必要書類・期限を確認する
高額療養費を受ける権利は、原則として診療月の翌月1日から2年で時効になります。請求書・領収書と保険の情報を手元に置き、対象となる診療月や支払いの状況を保険者へ伝えます。
申請できる人や必要書類は、加入していた保険と個別の状況によって確認が必要です。協会けんぽでは、被保険者が亡くなり相続人が請求する場合、故人との続柄が分かる戸籍謄本などを求めています。
払い戻しの対象となるか、誰が申請できるか、必要書類と期限を、故人が加入していた保険者へ確認してください。
協会けんぽの必要書類と申請期限は、次の案内で確認できます。
分からない点に応じて確認先を分ける
請求内容、払い戻し、税金、相続では、確認先が異なります。請求書と支払いの記録を手元に置き、下の表から該当する窓口を選んでください。
| 分からないこと | 確認先 | 最初に聞くこと |
| 請求額の内訳や支払期限 | 病院の会計窓口 | 何の費用か、いつまでに、どの方法で支払うか |
| 高額療養費の払い戻し | 故人が加入していた公的医療保険の保険者 | 対象になるか、誰が申請できるか、必要書類と期限 |
| 医療費控除や相続税の扱い | 税務署 | 対象となる控除、申告の要否と期限 |
| 相続放棄や期間伸長の手続き | 家庭裁判所・裁判所の公式サイト | 申述・申立て先、必要書類、手続きの期限 |
| 故人の財産からの支払いが相続放棄に与える影響、保証契約に基づく責任など | 弁護士 | 契約書や支払いの状況を踏まえた個別の法律判断 |
手続きの期限と次の確認先をメモする
まず未払いの医療費の支払期限を確認し、相続放棄を検討している場合は、支払いを進める前にその影響も確かめます。
税金や払い戻しについては、自分に関係する手続きと期限をメモしてください。
答えが分からない項目も、「何を、どこへ確認するか」を残しておけば、一つずつ進められます。
医療費の請求は記録と期限を確認して進める
死亡後に医療費の請求が届いたら、請求書と明細を保管し、未払いなら支払期限を確認します。
支払済みの場合は、誰が・いつ・いくらを・どのお金から支払ったかを、領収書と一緒に残してください。
病院に対する支払い義務と、家族などが立て替えた費用の精算は、分けて整理する必要があります。
医療費控除、相続税の債務控除、高額療養費にも、それぞれ条件と期限があります。関係する期限と確認先を整理し、手元の資料をもとに一つずつ進められます。

