個人事業主が亡くなった後は、故人の事業について、どの届出をいつまでに提出するかを整理する必要があります。
廃業届と消費税関係の死亡届出書は別の書類で、提出期限にも違いがあります。また、故人の申告・登録状況や給与の支払いの有無に応じた確認が必要です。
この記事では、国税庁の案内をもとに、廃業届の提出期限・提出先と、相続人が準備・提出する流れを解説します。
青色申告・消費税・インボイス・給与関係の届出に加え、準確定申告についても確認する項目と公式ページを紹介しています。
個人事業主が亡くなった場合、廃業届は相続人が提出する
個人事業主が亡くなった場合、相続人が「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
この記事でいう「廃業届」は、故人の事業を廃止したことを税務署へ届けるための書類です。
相続人が複数いる場合は、まず誰が書類の準備や税務署への連絡を担当するかを整理しておくと、手続きを進めやすくなります。
記入方法などが分からないときは、故人の納税地を所轄する税務署へ、該当する欄を示して尋ねます。
相続人が事業を引き継ぐ場合も、故人の廃業届と、引き継ぐ人に必要な開業などの手続きは別です。それぞれの手続きについては、後段で説明します。
死亡時に相続人が提出する主な届出書は、国税庁「廃業する場合」の「事業者が亡くなられた場合」で確認できます。
参考:国税庁「廃業する場合」
廃業届と「個人事業者の死亡届出書」は別の書類
「個人事業の開業・廃業等届出書」と「個人事業者の死亡届出書」は、名称が似ていますが、別の書類です。
故人の事業に関する主な届出書には、次の違いがあります。
| 書類の正式名称 | 主な役割 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 所得税に関する書類。死亡時には、故人の事業の廃止を届け出る |
| 個人事業者の死亡届出書 | 消費税に関する書類。個人の課税事業者が亡くなったことを届け出る |
| 適格請求書発行事業者の死亡届出書 | 消費税・インボイス制度に関する書類。インボイス発行事業者として登録していた個人が亡くなったことを届け出る |
廃業届を提出しただけで、消費税・インボイス関係の死亡届出まで済むわけではありません。
ただし、消費税関係の死亡届出書がすべての人に必要となるわけでもなく、故人の課税・登録状況に応じて使い分けます。
どの条件でどの書類が必要になるかは、後段の「青色申告・消費税・インボイスの届出を条件別に確認する」で説明します。
廃業届の提出期限と提出先
廃業届は、提出期限と、故人の納税地を担当する税務署を確認してから準備します。期限の制度が変わっているため注意が必要です。
2026年以後の死亡による廃業は原則4か月以内
2026年1月1日以後に死亡によって廃業した場合、廃業届の提出期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
国税庁は、死亡時の廃業届の期限を「死亡した年分の所得税の確定申告期限」と案内しています。所得税法では、年の途中で亡くなった場合の確定申告期限は、準確定申告の期限を指します。
例えば、2026年6月1日に亡くなり、相続人が同日に相続の開始を知った場合は、原則として2026年10月1日が提出期限です。期限が土日・祝日等に当たる場合は、翌開庁日となります。
2025年以前の廃業には従来の期限の取扱いがあるため、この期限を過去のケースへそのまま当てはめないようにします。
死亡時の廃業届の期限は、国税庁「廃業する場合」の「事業者が亡くなられた場合」で確認できます。
参考:国税庁「廃業する場合」
準確定申告の具体的な期限は、次の国税庁の案内で確認できます。廃業届と準確定申告は別の手続きなので、それぞれ準備が必要です。
参考:国税庁「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
提出先は故人の納税地を所轄する税務署
廃業届の提出先は、故人の納税地を所轄する税務署です。どの税務署が担当するか分からない場合は、故人の住所や事業所の所在地、過去の申告書などを手掛かりに調べます。
提出期限を過ぎている場合も、そのままにせず、所轄税務署へ未提出であることを伝え、提出方法を確認してください。
なお、廃業届の提出と、所得税の申告・納税は別の手続きです。準確定申告の期限や、申告・納税が遅れた場合の注意点は、後段で説明します。
相続人が廃業届を準備・提出する流れ
廃業届は、次の順で準備・提出すると、必要な作業を整理しやすくなります。
- 手続きを進める相続人を決め、故人の事業や申告・登録状況を整理する
- 国税庁の最新の様式と記載要領を入手する
- 必要事項を記入し、書き方で分からない欄を税務署へ確認する
- 提出方法と必要な添付書類を確認し、届出書を提出する
- 届出書の控えと提出日の記録を保管する
相続人の範囲を確認したい場合は、こちらで相続人の調べ方を解説しています。
最新の様式と記載要領を入手する
国税庁の「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」から、「個人事業の開業・廃業等届出書」と記載要領を入手します。
様式のPDFは、パソコンなどにダウンロードして入力・印刷することも可能です。
入力内容を保存できない場合があるため、ブラウザで開いたまま入力せず、先に保存してから作成します。
様式・記載要領と、作成・提出方法は、次の国税庁のページで確認できます。
記入する項目と書き方を確認する
届出書には、納税地・氏名・職業・屋号などの基本情報に加え、次のような項目があります。
- 開業・廃業などの届出区分
- 所得の種類と、事業の全部・一部の廃止の別
- 開業・廃業等の日付
- 事業を引き継ぐ場合の引継先
- 事業の概要や給与等の支払状況
故人の過去の申告書や事業関係の資料を手元に置き、記載要領と照らし合わせて記入します。
ただし、一般的な記載要領だけでは、書き方を判断できない欄もあります。
氏名・個人番号欄などに誰の情報を書くか分からない場合は、相続人として死亡に伴う届出を行うことを伝え、所轄税務署へ該当欄を示して確認してください。
提出方法と添付書類を確認して提出する
書面で作成した廃業届は、持参または送付によって提出できます。送付する場合は宛先を、持参する場合は窓口の受付時間を調べておきます。
国税庁の個別手続ページにはe-Taxの案内もありますが、「廃業する場合」の総合案内では、e-Taxソフトによる作成について死亡時を除く注記があります。
電子提出を希望する場合は、死亡時の廃業届で利用できるかを事前に確認します。
書面提出では、マイナンバーの記載に伴う本人確認書類の提示・添付の案内があります。
相続人が届け出る場合に用意する書類は、死亡時の記入方法とあわせて税務署へ確認します。
届出書の控えと提出日の記録を保管する
提出前に、届出書の控えを手元に残します。控えを作成するときは、個人番号部分を複写しないなど、マイナンバーの取扱いにも注意が必要です。
2025年1月以降、税務署は届出書などの控えに収受日付印を押していません。提出用の書類だけを提出し、控えは自分で保管します。
控えと一緒に提出日・提出先を記録し、郵送した場合は発送の記録も残しておくと、後から提出状況を確認しやすくなります。
控えへの収受日付印の取扱いと、提出事実の確認方法は、国税庁の案内で確認できます。
参考:国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」
廃業届とあわせて必要な届出を条件別に確認する
廃業届以外に必要な書類は、故人の申告・登録状況や、給与を支払っていたかによって異なります。
まず、青色申告の承認、インボイスの登録、消費税の申告、従業員などへの給与の支払いについて整理し、該当する届出を準備します。
青色申告の承認を受けていた場合
故人が青色申告の承認を受けていた場合は、相続人が「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出します。
国税庁の現行案内では、提出期限は「青色申告を取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限」です。
具体的な期限日が分からない場合は、故人の死亡日と対象となる年分を税務署へ伝えて確認します。
様式や提出方法は、国税庁の「所得税の青色申告の取りやめ手続」で確認できます。
消費税関係の死亡届出書はインボイスの登録状況で分ける
消費税関係では、故人がインボイス発行事業者として登録されていたかによって、相続人が提出する死亡届出書が異なります。
| 故人の状況 | 提出する書類 |
| インボイス発行事業者だった | 適格請求書発行事業者の死亡届出書 |
| インボイス発行事業者ではないが、消費税の課税事業者だった | 個人事業者の死亡届出書 |
この2種類は、該当する方を提出するもので、両方を提出する必要はありません。故人が消費税の課税事業者でなかった場合は、いずれも提出不要です。
提出時期は、どちらも「速やかに」とされています。所得税の廃業届とは提出時期が異なるため、該当することが分かったら準備を進めます。
インボイス発行事業者の死亡届出書については、国税庁の公式案内で様式や提出方法を確認できます。
書面で提出する場合の送付先は、故人の納税地を管轄する業務センターです。
インボイス未登録の課税事業者については、「個人事業者の死亡届出手続」で様式と提出先を確認できます。
給与を支払っていた場合は給与支払事務所等の廃止届も確認する
故人が従業員などに給与を支払っており、給与の支払事務を取り扱う事務所等を廃止する場合は、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」も確認します。
提出期限は、事務所等を廃止した日から1か月以内です。提出先は給与支払事務所等の所在地を所轄する税務署で、所得税の廃業届と期限や提出先が同じとは限りません。
事業を引き継いで給与の支払いを続ける場合は、故人側と引き継ぐ人側で必要な届出を税務署へ確認します。
給与支払事務所等の廃止に関する様式、期限、提出先は、国税庁の公式案内で確認できます。
事業を引き継ぐ人の開業・申請手続きも確認する
相続人が事業を続ける場合でも、故人側の廃業届と、事業を引き継ぐ人側の開業・申請手続きは別です。
故人の事業について必要な届出を行ったうえで、引き継ぐ人は事業を始める場合の手続きを確認します。
開業に伴う主な届出書や申請書、様式、提出期限は、国税庁の「開業する場合」で確認できます。
参考:国税庁「開業する場合」
引き継ぐ人が青色申告の承認を受けようとする場合は、承認申請の期限も確認が必要です。
故人が青色申告の承認を受けていた事業を相続で引き継ぐ場合には、死亡時期に応じた申請期限が設けられています。
具体的な期限は、国税庁の「所得税の青色申告承認申請手続」の「提出時期」で確認できます。
営業許可などが必要な事業では、税務上の届出に加え、許可を出している行政機関へ、事業を引き継ぐ際の手続きを確認します。
準確定申告は廃業届と別の手続き
準確定申告は、故人の死亡した年の1月1日から死亡した日までの所得と税額を計算し、相続人などが申告する手続きです。
事業の廃止を届ける廃業届とは目的が異なり、廃業届を提出しても準確定申告が完了したことにはなりません。
相続税と所得税の確定申告の違いは、こちらで解説しています。
相続税はかかるのか?~遺産相続にかかる税金と確定申告について
申告・納税の期限と提出方法を確認する
申告が必要な場合、申告・納税の期限は、原則として「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」です。
通常の確定申告と同じく翌年3月まで待てるとは限らないため、廃業届の準備と並行して期限を確認します。
また、年明けから通常の確定申告期限までの間に亡くなり、申告が必要な前年分が未提出だった場合は、その前年分についても確認が必要です。
申告期限、相続人が複数いる場合の提出方法、申告書に添付する付表などは、国税庁の「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」で確認できます。
申告が必要か判断できない場合は、故人の所得や過去の申告状況を整理して税務署へ問い合わせます。
参考:国税庁「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
申告・納税の期限を過ぎた場合の対応を確認する
申告・納税が遅れると、無申告加算税や延滞税が生じる場合があります。
期限を過ぎている場合は、税務署へ申告・納税の状況を伝え、必要な対応を確認します。
所得税の申告が遅れた場合の一般的な取扱いは、国税庁の「確定申告を忘れたとき」で確認できます。
まとめ|国税庁の様式を確認し、該当する届出を整理する
個人事業主が亡くなった場合は、相続人が故人の廃業届を提出します。まず、死亡した時期に応じた提出期限と、故人の納税地を所轄する税務署を確認します。
準備の基本は、国税庁の最新の様式と記載要領を入手し、故人の申告書や事業関係の資料をもとに記入することです。
書き方や添付書類で分からない点は、該当する欄を示して税務署へ尋ねます。
提出前には控えを作成し、提出日・提出先とともに保管します。郵送した場合は発送の記録も残しておくと、後から提出状況を確認しやすくなります。
すべてを自己判断する必要はありません。手元の資料と公式案内で分かることを整理し、不明な項目を具体的に確認しながら、一つずつ準備を進めてください。

