相続人が2名以上いるとき、遺産分割がおこなわれます。
相続全員が同意し、合意しなくては、遺産相続のお手続きは遅々として進みません。
どうしても合意に至らないとき、どうすればよいのでしょうか。
会う、電話する、メールする
お葬式のときなどに、さらっと遺産分割のお話をしたとしても、いざ、ご相続のお手続きが進行すると、相続人全員の印鑑証明などが必要になりますので、どこかのタイミングで、腰を据えて、他のご相続人ときちんとお話をしなくてはなりません。
気心の知れたご関係で、スムーズにお話ができるときは良いですが、少し疎遠であったり、日頃からあまり付き合いのないご親戚同士であったりするときは、どうお話を切り出して良いかも分からないことが通常です。
そんなご関係であればなおさら、なんとかお時間を作っていただいて、直接お会いされるのが良いとおもいます。
- 時間が取れない、
- 遠方である、
- あまり会いたくない、
というときは、お電話でお話をすることになります。
- 電話が苦手、
- 記録を文章に残したい、
ということで、メールやLINEでのみ、やり取りされるケースもありますが、これはなかなかお互いの真意が伝わらず、ひどい場合は意に反するほどの亀裂につながってしまう場合もありますので、特に注意が必要な連絡手段かとおもいます。
無理な要求をおこなうと…
誰かひとりでも無理な要求をおこなうと、遺産分割は停滞することになります。
法定相続分どおりに分割しなくてはいけない、ということはありませんが、不公平をおこさないためには、法定相続分どおりに分割することが、ひとつの解決法かとおもいます。
法定相続分とは
民法で定められている、各相続人への遺産分割の割合です。
原則均等ですが、相続人の間で遺産分割の内容に合意があれば、必ずしもこの相続分で遺産の分割をしなければならないということではありません。
また、誰と相続するかによっても変わってきます。
どうしても意見を変えない人がいる
あきらかに不合理な要求をする人は、あまりいらっしゃらず、その人にとっては非常に合理的であると信じて主張をされるケースが多いです。
しかし客観的にどう見ても不合理であるときも多いです。
誰かが妥協するしかない場合もあります。
相手の意見が変わることを求めるのではなく、ご自身が妥協できるかをご検討いただくことも重要かとおもいます。
トラブルになるポイント
法定相続分に従って分割をしようとしているのに、意見が合わないときは、費用負担に関することや、寄与に関することが論点になっている場合があります。
- 自分だけ多額の旅費交通費がかかった、
- 自分は法要・お墓の費用を負担したくない、
- 専門家費用を負担したくない、
- 故人の生前に特定の相続人だけが贈与・恩恵を受けている、
- 自分が故人の晩年のお世話をした、
- ある相続人が故人の資産を不当に流用した
などなど。
一見、すべて合理的な意見とおもわれますが、その実情は、第三者には分からないため、これら主張を検証するには、膨大な時間と手間がかかってしまいます。
寄与分
民法で、法定相続分を超える財産を相続できる制度があり、それを寄与分と言います。
自分が故人の晩年のお世話をしたという方が当てはまります。
寄与分の対象は相続人のみですが、息子の妻などの場合は、相続人に「特別寄与料」を請求することが可能となります。
ただし、認められるには次の要件があります。
- 対価を受け取っていない
- 被相続人と相続人の身分関係(夫婦や親)から通常期待される程度を超える行為であった
- 片手間ではなく、その行為に専念していた
- 長期間継続していた
また、寄与分が考慮されるケースはそんなに多くありません。
親の面倒をある程度見ることは、当然とされており、逆に家族でも普通はそこまでしないという場合は認められる可能性があります。
寄与分を主張するには手間と時間を費やすこととなります。
参照:寄与分に関する裁判例
遺産分割が進まないときのデメリット
遺産分割協議がまとまらないことには、
- 銀行預金など金融資産は凍結されたまま、相続することができません、
- 不動産も、故人の名義のままになります、
- 資産を受け取っていなくても、相続税の納税は発生します、
- 法要等、多くのお支払いも発生します
- 相続税の申告・納付期限に間に合わない
銀行口座の凍結
銀行口座は、相続手続きが終わるまで凍結されます。
相続人の間で遺産分割が決まり、銀行口座の凍結解除の手続きを行わないと、原則預金を引き出すことはできません。
また、口座名義人が亡くなったら、銀行への連絡が必要ですが、連絡せず預金を引き出してしまうと、相続を単純承認したとみなされることもあります。
単純承認
単純承認は、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐこととなります。
また、相続放棄もできません。
故人の財産を処分したり、「限定承認」または「相続放棄」をしなかった場合も単純承認とみなされます。
ただし、3ヶ月の考慮期間があります。
参照:単純承認(証券用語集)
不動産
不動産は、固定資産税さえ支払えば、居住することに問題はありませんが、長い年月とともに、相続関係が複雑になっていくケースがございます。
相続登記の義務化にも、反するようになります。
何より、相続のお金を受領していないのに、税金だけはかかってしまうということは、多くの人に取ってつらい現実となるのではないでしょうか。
相続税の申告・納付期限
相続税は、原則法定納期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月目の日)までに納付することになっています。
例えば、1月20日に亡くなった場合、11月20日までに行います。
少し時間があるからと言って遺産分割が進まなければあっという間に時間が過ぎてしまいます。
申告期限に間に合わない時
一旦、法定相続分で申告・納付をし、後から税金の還付を受けるための手続きで納め過ぎた税金を取り戻すことができます。
この際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと、申告期限後3年以内に遺産分割がまとまれば小規模宅地等の特例などの適用も受けられるようになります。
また、特別な事情(災害、失踪や出産により、相続人の異動や取得する財産額の変動)がある場合は、税務署に申請をすることで、最大2ヶ月間の申告期限の延長が可能となります。
ですが、申告期限の延長は原則認められていないので注意しましょう。
参照:相続税の延納(国税庁)
最終手段は遺産分割調停
どうしても折り合いがつかないとき、最後の手段は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるしかありません。
弁護士さんに依頼するときには相応の費用がかかりますし、精神的なストレス、労力も、相当なものになることが予想されます。
妥協できるのであれば、妥協する。
しかし、どうしても妥協できないときは、無理にお考えを曲げる必要はございませんので、相応の時間・費用・労力がかかることをご覚悟いただき、遺産分割調停に臨んでいただくのがといかと思います。
遺産分割調停の流れ
相続人のうちの1人、もしくは何人かが他の相続人(全員)を相手方として申し立てを行います。
申立先
相手方の相続人のうち1人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所
費用
- 被相続人1人につき収入印紙1200円分
- 連絡用の郵便切手
500円×2枚×(当事者数)
110円×10枚×(当事者数)
100円×5枚×(当事者数)
50円×5枚×(当事者数)
10円×10枚×(当事者数)
合計2950円×(当事者数)
必要な書類
- 申立書1通及びその写しを相手方の人数分
- 当事者等目録
- 遺産目録
- 相続関係図
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の住民票または戸籍附票
- 遺産に関する証明書
(預貯金通帳の写し又は残高証明書など)
などが必要です。
上記以外にも裁判所からその他の追加書類を求められる場合もあります。
遺産分割調停の期間
遺産分割調停にかかる期間はおよそ1〜2年です。
長いと思われるかもしれませんが、1ヶ月〜1ヶ月半の間隔で話し合いが進められることとなります。
平均7回行われますが、これはあくまでも平均であり、早く合意が得られれば早く終わります。
合意に至らない場合
合意に至らない場合には、遺産分割調停が不成立になり、遺産分割審判へ移行することとなります。
また、これらを決めるのは、調停委員となります。
最終的には、裁判官が当事者から提出された書類などに基づいて決定します。
まとめ
遺産分割は、相続人全員の合意がなければ進めることができません。
スムーズにいけばいいですが、トラブルが起きると時間も労力もかかってしまいます。
相続人それぞれ、妥協点を見つけることが大切になってきます。
しかし、どうしても折り合いがつかない場合は、最終手段として遺産分割調停をすることが解決策と言えるでしょう。
調停には時間や費用がかかりますが、公平な遺産分割が出来る手段でもあります。
スムーズに進めれるように、普段から親族間で良い関係性を保っておくことも非常に重要だと思います。