故人の財産も借金も相続人が相続しますが、財産がなく、借金ばかりのときに相続させられる相続人は、たまったものじゃありません。

そのような相続人のために、相続の放棄という制度があります。

相続することを希望しない相続人は、家庭裁判所に相続放棄の意思を申し出て、家庭裁判所が認めてくれれば、相続権を放棄することができます。

相続放棄をした相続人は、はじめから相続人でなかったことになり、その相続権は後順位の相続人に移ります。

たとえば父が死亡し、母(配偶者)と息子が相続人の場合に、息子が相続放棄すると、かわりに父の両親である祖父母が相続人になります。そしてこの祖父母が死亡していたり、同じように相続放棄をすると、次は父の兄弟である、おじ、おば、が相続人になります。

相続放棄がされた後の故人の貯金や不動産はどうなるのか

故人が借金を残されたまま死亡された場合は、お金を貸していた債権者は、故人の相続人に、債務の返済を求めることになります。

ところが、相続人が相続放棄をすると、債権者は、返済を求める相手がいなくなります。

ただ、故人は負債だけではなく、不動産や、いくらかの預貯金も残されているケースも多いので、債権者としては、その財産から返済を受けたいと思うのですが、

相続放棄をされてしまうと、それらプラスの財産までも、相続する人がいないため、宙に浮いたままとなってしまいます。

そこで債権者は、それら財産から返済を受けるべく、裁判所へ申立て、故人が残されたプラスの資産を換金して、貸付金の弁済に充当することになります。

大手の消費者金融などは、相続放棄をした相続人に返済を要求することは、まず、ありません。

また、違法な貸金業者からの返済要求をご心配される方もいらっしゃるとおもいますが、この場合は、そもそも違法なので返済義務がありません。

いずれにしても、相続を放棄した相続人は無関係となりますため、以後の事務処理は債権者にゆだねるということで問題はありません。

相続放棄の取り消しはできるのか

裁判所に申述して、受理された相続放棄を、あとから取り消しはできるのでしょうか?

相続放棄の申述をおこなうと、家庭裁判所はその申し立てに合理性があるか、などを審判します。なかには認められないケースも有ります。そうやって審判され、受理された相続放棄ですから、やっぱり相続します、という勝手なことはいえません。

例外的に取り消しできるケースは、詐欺、脅迫、重大な勘違いによって相続放棄をしてしまった場合です。誰かにだまされたとか、脅された、勘違いしていた、という場合です。ただし、勘違いは認められにくいようです。

上記の理由があって、どうしても相続の放棄を取り消したいときは、個別の事情で判断されますので、家庭裁判所に相続放棄の取り消しの申請をします。

なお、そもそも申請しなかったことにする、”撤回”は絶対に出来ません。(最判S37.5.29)

法定代理人がいないときの未成年者の相続放棄

両親がともに死亡したりして、未成年者に法定代理人が不在のとき、未成年者が相続放棄をするには、未成年後見人の選任が必要です。

未成年者が複数人いるときは、未成年者1人につき、後見人を1人ずつ選任します。

後見人候補者の戸籍謄本など各種添付書類を用意して、未成年者の住所地の家庭裁判所に申し立てを行ないます。

未成年者が15才以上であれば、本人が申し立てを行ないますが、

15才未満のときは、その親族など、利害関係人が未成年者のために申し立てを行なうことになります。

晴れて未成年後見人が選任されると、その者が、未成年者に代わって相続放棄の申請をおこなうことになります。

法定代理人がいないときの未成年者の相続放棄は、2ステップで手続をおこなうことになりますのでご注意を。

相続放棄した人の子どもはどうなる?(代襲相続)

相続放棄をした相続人は、はじめから相続人ではなかったことになり、その相続権は次の順位の親族に移ります。

父が亡くなり、子が相続放棄すると、相続権は父のご両親である祖父母に移ります。祖父母がすでに他界していたり、同じく相続放棄をすると、次は父のご兄弟が相続人になります。

ところで、相続には代襲相続という制度があります。

これは、相続するべき子が父よりも先に亡くなっているとき、さらにその子(孫)が相続権を持つという制度です。

代襲相続

ここで心配になるのは、相続人である子が相続放棄したら、父の借金はさらにその子(孫)に負担がいくのでは?ということです。

民法では、代襲相続になる場合を、死亡、相続欠格、廃除があったときに限定しています。相続放棄は代襲相続しませんのでご安心ください。

家庭裁判所でおこなう相続放棄と、遺産分割協議でおこなう相続放棄

なお、相続放棄には2種類あり、借金があるときに裁判所でおこなうものが正式な相続法ですが、相続人の間で、自分は相続分を放棄する、というときは、一般的に遺産分割協議での相続放棄をさします。

後者の相続放棄は話し合いによる意思表示ですので、3か月などと期間の制限はありません。

よく勘違いされる部分ですので、注意が必要です。