故人が証券口座をお持ちの場合、口座内にある株券や、投資信託、MRFなども相続対象となります。
「株のことはよく分からないので、全部換金して現金で相続したい」、というご要望も多いのですが、亡くなられた方の名義のままでは、換金することができません。
株券は存在しない?
株券が存在しないとはどういうことか。正しくは、株は電子化されたので、かつての紙の株券は存在しないということです。
株の電子化は、2009年に「株券不発行制度」に基づいて導入されました。
電子化の背景
電子化前のリスク
- 紙の株券は、盗難や紛失のリスクが高い。
- 名義変更や取引の処理に時間と手間がかかる。
- 脱税や不正取引が行われる可能性がある。
電子化前は、紛失や盗難が容易で、所有権が悪用されたり、不正な取引や売買が行われるリスクがありました。
また、偽造や改ざんで、偽造された株券が市場に出回ることで、投資家が被害を受けることもありました。
券の所有者が変更される場合、書類手続きや物理的な株券の移動が必要で、時間と手間がかかることや、名義変更が完了するまでの間に株価が変動するリスクがあり、迅速な取引ができませんでした。
紙の株券は匿名での取引が可能であったため、不正取引や脱税が行われやすい状況にあり、売買益や配当金に対する課税を適切に把握することが難しく、税収に影響が出ることもありました。
- 管理の負担や保管のコスト
- 相続や贈与手続きが複雑
株券を安全に保管するためには金庫や専用の保管庫が必要で、大量の株券を持つ企業や個人は、保管場所の確保にコストがかかりました。
また、手動で管理する必要があり、所有株の種類や数が多い場合、ミスや紛失のリスクが高くありました。
相続人が株券を見つけられない、またはどこに保管されているか分からないことが多く、相続手続きが滞るケースがあったり、贈与時も書類や株券そのものの移動が必要で、手間がかかりました。
こうした背景から株券はなくなり、電子化されることになりました。
株の電子化によって、これらのリスクや課題は大幅に改善され、電子データによる管理により、紛失や盗難、偽造のリスクがなくなり、名義変更や取引も迅速化しました。さらに、税務管理も適切に行えるようになり、投資家にとって安心して取引ができる環境なりました。
株の保管場所
電子化により株券がなくなることでどのような場所で保管されているかご存知ない方もいるのではないでしょうか?
株の保管場所は、証券保管振替機構、通称“ほふり”という場所で保管されています。
証券会社は顧客から預かった有価証券をほふりで管理しており、顧客資産と自社資産を分別保管することが義務付けられていることから、万が一証券会社が倒産した場合でも、顧客の資産は保護される仕組みとなっています。
ほふりとは、日本の証券市場における証券の保管および振替を行う機関であり、安全に管理する信頼性の高い機関です。
電子化の手続き
電子化される前から保有されている紙の株券は、電子化が実施された後、証券口座を開き、電子化のお手続きが必要でした。
現在も紙株券を保有している可能性がある人の特徴としては、高齢者で手続きの存在を知らなかった方や、、故人がご勤務されていた会社の株を、昔に株券でもらい、そのまま金庫に保管されているケースもございます。しかし、電子化のお手続きをしないまま、そのまま株券として保管されているケースも多く見受けられます。
株券を電子化していない場合
株券を未だに持っており、電子化していない場合、次の影響があります。
- 売買や名義変更ができない
- 配当金を受け取れない
- 相続手続きが複雑化
2009年以降、紙の株券は無効となっており、株式の売買や名義変更には利用できません。
株券が電子化されていない場合、株主名簿に登録されていないため、配当金や株主優待を受け取ることができません。
相続財産として株券が発見された場合、電子化が未完了だと手続きが煩雑になります。
株券をまだ持っている場合の対応方法
- 電子化手続きの確認
- 株主名簿管理人への連絡
証券保管振替機構(ほふり)や証券会社に問い合わせ、株券の電子化手続きを行いましょう。
株券を証券会社に提出し、口座へ登録することで所有権が記録されます。
株券発行企業の株主名簿管理人に問い合わせて、電子化の手続きを進めましょう。
参照:券会社に預けていない手元にある株式 (いわゆるタンス株)を、特定口座に入れることは可能ですか?
各上場企業の株主名簿は、信託銀行が管理
先進企業の株主リストは、株主の情報を正確に管理し、権利行使や審査金の支払いをスムーズに行うための重要なものです。この株主名簿の管理業務は、通常、信託銀行が担っています。
株主として保有されている株式は、各個人の証券口座で保管されていますが、配当金の手続き、企業ごとの株主名簿、電子化しないままの株券を保有している株主のデータは、各上場企業が委託している信託銀行などが管理しています。
株券を相続するときは、証券会社と、管理信託銀行、それぞれに手続きが必要になる場合があります。
因みにですが、上場していない企業の株式(非上場株式)の場合は、取引所がございませんので、株券を発行した会社の規定に従い、手続きを進めることになります。
株主名簿とは
株主名簿とは、企業が発行している株式を保有している株主の情報を記録した公式な帳簿です。
株主の氏名や住所、所有株式数や登録日などの情報が記載されています。
株主名簿は、株主総会の招待通知や株主優待の発送時に利用されます。
信託銀行が管理する理由
多くのトップ企業は、自社で株主リストを管理せず、信託銀行にその業務を委託しています。
信託銀行は、株主データを専門的に管理する体制が整えられており、企業が自社で管理するよりも効率的かつ正確な処理が可能です。
また、企業が自社で株主名簿を管理する場合、システムの維持やスタッフの配置に大きなコストがかかりますが、信託銀行に委託することで、コスト削減が期待できます。
主な信託銀行は、三菱UFJ信託銀行やみずほ信託銀行、三井住友信託銀行などが挙げられ、多くの一流企業の株主名簿を管理しています。
証券口座を準備して、相続する
故人が証券口座を持っている場合でも、紙の株券を持っている場合でも、いずれもこれらを相続するためには、相続人の証券口座が必要です。
証券口座をお持ちでない場合や、故人の証券口座と異なる証券会社のため、移管ができない証券口座しかお持ちでないときは、相続をするためだけに、新しく証券口座を開設しなくてはなりません。
参照:【初心者向け】証券口座とは?銀行口座との違いや開設方法を解説
そして、株や投資信託といった、現物のまま、相続人の証券口座へ移管し、その後、相続人がご自身の有価証券として、売却のお手配をしていただくことになります。
株の売却は相続人本人からの申し出が必要
相続するために、新たに相続人の証券口座を開き、故人の株が相続により移管された後は、ご自身の株式として、処理が必要です。
そのまま保有を続けて、配当金を受けたり、値上がった頃を見計らって、売却することも可能です。
株を売却する手順
証券会社のアプリやウェブサイトの取引画面にログインをし、手続きを進めていきます。
売却注文を入力し、注文を確定することで売却が成立します。
各証券会社からやり方など説明がされておりますので、お電話やウェブサイトで確認をすると良いでしょう。
未受領の配当金
被相続人が受取らないままになっている未受領の配当金がある場合は、さかのぼって請求することが可能です。
銀行口座の凍結や、故人が亡くなったあとに配当金通知書が届いたりして、相続人が受け取れなかった配当金があるときは、管理されている信託銀行で手続きをおこなうことで、未受領の配当金を受け取ることが可能です。
配当金の受け取り方法
配当金の受け取り方法はいくつかあります。
- 登録配当金受領口座方式
- 株式数比例配分方式
- 配当金領収証方式
株主が所有するすべての上場株式の配当金を指定した口座で受け取る方法です。
証券口座で受け取る方法です。
1つでも信託銀行で管理している株式があるとこの方式は選択できません。
発行企業から送付される「配当金領収証」を使用します。
送付された配当金領収証を指定期間内にゆうちょ銀行に持って行き配当金を現金で受け取る方法です。
配当金領収証による配当金の受け取り期限は、支払開始日から約1ヶ月となります。
注意点
被相続人が株式数比例配分方式(証券口座で受け取る方法)を選択していた場合は、未受領の配当金はありません。
また、配当時期ごとに、時効や支給される期限がありますので、あまりに年数が経過すると受給できなくなりますので、注意してください。
まとめ
上場株式を相続する場合、被相続人が保有していた証券口座や株式、信託投資等の相続の対象となります。 なお、相続の際には相続人自身の証券口座を開設する必要があります。証券口座を開設しないと売却や売却金の受け取りができないため、適切な手続きが求められます。