多くの方がはじめて迎えられる遺産相続。
遺産相続には、さまざまな法律や慣習など、普段は馴染みのない独特のルールが存在します。
突然のことに戸惑うことなく、粛々と遺産相続手続きをすすめるために、必要となるポイントを、順を追ってご説明します。
法定相続人は誰なのか?
遺産相続の手続きを進めるにあたり、まず最初に確認するべきことが、法定相続人は誰なのか?ということです。
当然に自分が相続人だ、自分たち兄弟姉妹が相続人だ、と思っていても、実は自分は相続人ではなかった、自分たち以外にも存在を知らない相続人がいた、ということは、実は意外とよくある事例なのです。
両親が結婚する前に、子どもがいたケース
たとえば父が、母と結婚する前に、母以外の女性との間にお子様をもうけられていたケースです。
ご両親がおもいはかって、先のきょうだいがいることを黙ったまま亡くなってしまわれ、いざ、ご遺族が遺産相続のお手続きを進めてみたときに、はじめて、自分たちに知らないきょうだいがいた!という事実を戸籍謄本で知ることになります。
父または母が再婚で、自分たちと養子縁組がなされていなかったケース
幼少の頃に、実の父母の一方が亡くなり、その後、再婚されたケースです。
自分たちは生みの親ではないことを聞かされていたとしても、ずっと親子として生活を共にしてきて、最後を看取り、いざ遺産相続のお手続きを進めてみたときに、はじめて、再婚した父または母と自分たちの間に親子関係がなかった!という事実を戸籍謄本で知ることになります。
たとえば父を筆頭者とした戸籍に、自分たちは子として、再婚後の女性は配偶者として、同じ戸籍に記載されることになりますから、当然に自分たちは法律上も親子だとおもってしまいがちですが、再婚された女性(義母)は、子である自分たちと養子縁組しなければ、親子関係は生じません。
これは戸籍と相続の関係をご存じないために起こってしまう事例とおもいます。
誰が法定相続人となるかは、戸籍謄本で確認する
まずは亡くなられた方の戸籍謄本を取得して、改製原戸籍、除籍謄本、と、ずっと古いものをさかのぼってすべての戸籍を収集することが重要です。
現在の日本の法制度では、戸籍謄本以外に、遺産相続に関する身分関係を公証する公的書類が存在しません。
銀行などがしつこいくらいに出生までの戸籍謄本を求める理由はそのためです。
もし知らない相続人がいたら、どうしたらいいのか?
たとえ今までまったく交流がなかったとしても、その方を無視して、勝手に遺産相続をすすめることはできません。
住民票などからその方の現住所を確認して、手紙や訪問などで事情を説明し、遺産相続の手続きに協力してもらえるよう、お話をしなくてはなりません。
その方の行方がどうしてもつかめないときは、行方不明者として、家庭裁判所の関与のもとに、遺産相続の手続きを進行することになります。
どれくらいの遺産があるのか?
法定相続人が誰なのかが確認できたら、次に、故人が残されたご資産の全体を調査します。
記憶をたよりに、やみくもに、思いつくままに手続きを進めてしまうと、多くの場合は途中で混乱をきたし、手続きが進まなくなってしまいます。
不動産、金融資産、給付金、保険金など、項目別に故人が残されたご資産を1件ずつ調査と確認をおこない、遺産目録として、一覧表にまとめます。各ご資産ごとに、残高証明書など、正確な金額が確認できる書面を用意することが重要です。
遺産目録が完成しましたら、それをもとに、相続人全員で遺産分割協議をおこない、故人が残されたご資産をどのように各ご相続人が承継し、分割するのかを、話し合います。
遺産目録に記載する財産
故人が残された、預貯金、有価証券、株式、保険、不動産、その他、分割対象となる還付金や自動車など、思いつく限りを記載します。
それらひとつひとつに、預金であれば金融機関が発行する残高証明書、有価証券であれば評価額証明書、不動産であれば固定資産税評価証明書、など、
金額の根拠となる資料を添付して、目録としてまとめていきます・
生命保険も記載するのか
受取人が指定されている生命保険は、遺産分割の対象にはなりませんが、みなし相続財産として、相続税の対象にはなります。
作成する目録が、遺産分割のためのものであれば、生命保険の記載は不要ですが、
相続税など、財産全体を把握するためのものであれば、生命保険も記載します。
遺産相続5つのポイント >>2、どれくらいの遺産があるのか?
相続税はかかるのか?
遺産相続に直面された多くの方々が、まず、ご心配されるのが、相続税です。
遺産目録で確認できた故人の遺産総額から、相続税の課税対象となるかどうかを判断します。
基礎控除について
相続が発生したすべての方に、相続税が課税されるわけではありません。
相続税には、大幅な基礎控除という制度がございます。
そちらの、基礎控除される金額を超えるご資産を、故人が残されたときにはじめて、相続税の納税が発生します。
全体を見ることが大切
この不動産には相続税がかかりますか?
という質問をよくいただきます。
個別に、不動産だけに相続税がかかるのではありません。
金融資産も不動産も、すべてを合計した資産総額に対して、相続税がかかります。
納税は、各相続人が、相続した割合に応じて、負担することになります。
各相続人の相続税負担額の例
たとえば、遺産全体から計算した納付するべき相続税が、1000万円だったときに、
- 全遺産を1人が相続したとき(100%)は、その相続人が税金も100%(1000万円)を負担します
- 2人が半分ずつ相続した時(50%)は、2人の相続人が、税金も50%(500万円)ずつを負担します
遺産相続5つのポイント >>3、相続税はかかるのか?~遺産相続にかかる税金と確定申告について
遺産分割協議はどのようにおこなうのか?
遺産目録で確認できた故人の遺産を、相続人同士でどのように分割するのか、遺産分割協議をおこないます。
現金は分割しやすい
預貯金や定期預金は、単純に人数などで割って、その金額を各自が受領すればよいので、遺産分割が容易です。
株と不動産に注意
株は、評価額が上下しますので、公正に分割することは難しいです。
売却すれば、その金額を分割すればよいですが、現物のまま保有するときは、
銘柄ごと、株数で分割しないといけませんので、慎重に話し合う必要がございます。
不動産はとくに、金額が大きくとも、売却しない限りはお金になりませんので、
お住まいを続けられる方が不動産を相続し、他相続人には代償金を支払うという分割にする場合は、
不動産を相続する方が、なんとかお金を工面しなくてはなりません。
公正に分けることも大事ですが、家を守るなど、目に見えない目的や負担を考慮することも大切とおもいます。
遺産相続5つのポイント >>4、遺産分割協議はどのようにおこなうのか?
遺産相続手続きをしないままでいると、どうなるのか?
なんとなく時間が過ぎてしまったり、手続きを進める時間がなかったりして、遺産相続手続きがなかなか進まないこともよくあります。
遺産相続手続きをおこなわずに放置してしてまったら、どうなるのでしょうか?
令和6年(2024年)4月1日より、相続登記が義務化され、期限が設けられます。
詳しくはこちらをご参照ください。
ただちに不利益となることはない
何がなんでも、手続きをしないといけない、ということはありません。
若干の不利益やペナルティが生じるケースもありますが、
ただちに相続人に莫大な不利益が生じることは、通常はありません。
- 大きな借金があるとき
- 相続税がかかるほどの多額のご資産を残されたとき
この場合は期限もございますので、急ぎ手続きを進めなくてはなりませんが、
上記に該当しないときは、皆さまご自身のペースで、ゆっくりと取り組まれてはいかがかとおもいます。
遺産相続5つのポイント >>5、遺産相続手続きをしないままでいると、どうなるのか?